ここの演出家は、『語らせたらとまらない』ことでは定評があるやうでございます。
今日は『夢幻能オセローとの出会い』について、語っております。。。

●「夢幻能オセロー」との出会い
 この上演のきっかけは、雑誌「文學界」に載っていた、平川祐弘さんのアーサー・ウェーリー(東洋学者、1889-1966)についての評伝を読んだことでした。このウェーリーという人は、「源氏物語」を英訳したことで有名なんですが、能を英国に紹介した人でもあるんですね。彼は英国人向けに能を紹介する際に、当時ロンドンで上演されていたジョン・ウェブスターの芝居を素材に、これをもし能でやるとこうなる、という風に説明をしました。平川さんはそのウェーリーの例にならって、平川さん流に、皆さんよくご存知の「オセロー」をもし複式夢幻能で構成するとこうなる、ということを書かれたんです。複式夢幻能のシステムを説明するために、よく知られたシェイクスピアの「オセロー」を使った、ということですね。その部分を読んだ時に、僕は実に感銘を受けまして。僕はシェイクスピアの四大悲劇のうち、この「オセロー」に関しては、気になる作品ではあるんだけれども、どうも上演に踏み切れないところがあったんです。というのは、デズデモーナというヒロインがまるで看板に書かれた絵のような、変化しない美しいものとして書かれていて、あまり生き生きしていないように感じたんですね。マクベス夫人やオフィーリアと比べても、どうもデズデモーナは生きていない。あくまでも男から見たマドンナのような、デズデモーナの造形そのものに巨大な弱点があるように思えたんですね。(つづく)