●夢幻能「オセロー」のデズデモーナ
 しかし複式夢幻能形式の「オセロー」の場合はデズデモーナがシテになっていまして、殺されたデズデモーナの魂魄が、前ジテではサイプラスの娘のなりで出て来て、旅の僧侶と話していると、やがて正体を現し、後ジテではデズデモーナとして登場するという構成で、あっと思ったのは、原作の最大の弱点である「デズデモーナの生きていなさ」が見事に解決されていた点です。むしろデズデモーナをシテにすることによってこの「オセロー」という芝居の最大の弱みが最大の強みに変わって、急に僕にとっては面白い戯曲に思えてきたんですね。
●ワークインプログレス「葵上」を通して
 このアイディアはいつかやってみたいな、と思っていたんですが、この春にこの「オセロー」の為の布石として、「葵上」の謡曲の詞章を、能の謡の手法を使わずに、ク・ナウカのテクニックで上演してみたんです。謡という母音を伸ばしていく手法を使わずに、せりふを音楽的にどう言えるか、ク・ナウカが今までに蓄積してきたテクニック、パーカッションなども含めてどうやれるかということをやってみたんですね。短期間で作ったものではあったんですが、手ごたえはありました。そこで、今回「葵上」で使った手法をさらに発展させて、能のことばを謡のテクニックではなくしゃべる、ということに挑戦しているんです。
(つづく)